退職金・iDeCo受取の実態白書 2026
税制改正の影響と最適受取戦略
株式会社Mycat 発行 | 2026年3月
2026年1月、退職所得控除の重複適用回避期間が5年から10年に延長される税制改正が施行されました。 この「10年ルール」は、退職金とiDeCoの両方を受け取る約350万人のiDeCo加入者、 そして退職給付制度を持つ企業の従業員に直接的な影響を与えます。
本白書は、厚生労働省「就労条件総合調査」、国民年金基金連合会の公表データ、 国税庁統計など公的な一次情報を基に、退職金制度の現状・iDeCoの普及動向・ 税制改正の具体的影響・受取最適化の基本戦略を体系的にまとめたものです。
従来の「5年ずらし」戦略が通用しなくなる今、受取方法と受取時期の組み合わせによって 手取り額に最大300万円の差が生じるケースもあります。 この白書では、具体的な税額計算を交えたケーススタディを通じて、 改正後の最適な受取戦略を解説します。
第1章: 退職金制度の現状
74.9%
退職給付制度がある企業の割合
出典: 厚生労働省「就労条件総合調査」
69.0%
退職一時金のみの企業の割合
1,896万円
大卒・管理事務技術職の平均退職金額
退職給付制度がある企業は全体の74.9%を占めています。そのうち退職一時金のみの企業が69.0%、 退職年金制度を導入している企業は24.2%にとどまります。 退職金の平均支給額は、大学卒・管理事務技術職で勤続35年以上の場合1,896万円ですが、 企業規模や業種による差が大きく、中小企業では1,000万円を下回るケースも珍しくありません。
企業規模別の退職金額(大卒・勤続35年以上)
企業規模による格差は大きく、従業員1,000人以上の企業と30〜99人の企業では 退職金額に約2倍の開きがあります。また、退職給付制度の形態も変化しており、 確定拠出年金(企業型DC)を導入する企業が増加傾向にあります。 これにより、退職時の受取方法の選択肢が増え、税務面での最適化の重要性が高まっています。
第2章: iDeCoの普及と受取の課題
350万人超
iDeCo加入者数(2025年時点)
出典: 国民年金基金連合会
年間50万人超
2017年以降の年間増加ペース
2.3万円
会社員の平均掛金月額
iDeCoの加入者数は2017年の制度改正で加入対象が拡大されて以降、急速に増加しています。 2025年時点で累計加入者数は350万人を超え、年間約50万人以上のペースで増え続けています。 掛金の全額所得控除という入口のメリットに惹かれて加入する人が多い一方で、 受取時の税制設計まで考慮している加入者は少数にとどまります。
iDeCo受取時の3つの選択肢と税制上の扱い
1. 一時金受取(退職所得)
退職所得控除が適用され、控除後の金額の1/2が課税対象。 分離課税のため、他の所得や社会保険料に影響しない。 ただし退職金との重複適用に「10年ルール」の制約あり。
2. 年金受取(雑所得)
公的年金等控除が適用される。65歳以上は年間110万円まで非課税。 ただし公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)と合算されるため、 控除枠を超えると総合課税の対象に。国民健康保険料にも影響。
3. 一時金+年金の併用
退職所得控除と公的年金等控除の両方を活用する方法。 各控除枠に収まるよう配分を設計することで、課税額を最小化できる可能性あり。 ただし運営管理機関によっては併用に対応していない場合がある。
加入時には運用商品の選択に注目が集まりますが、受取時の税制優遇を考慮した出口戦略についての 情報提供は十分とは言えません。「貯める」フェーズの情報は豊富でも、 「受け取る」フェーズの情報は限られているのが現状です。 iDeCoの資産額が大きくなるほど、受取方法の選択が手取り額に与える影響は拡大し、 数十万円〜百万円単位の差が生じることもあります。
第3章: 2026年税制改正「10年ルール」の影響
改正の要点
- 退職所得控除の重複適用を回避するための間隔が5年から10年に延長
- iDeCoと退職金の両方を一時金で受け取る際の課税計算に直接影響
- 従来の「5年ずらし」戦略が通用しなくなるケースが発生
- 2026年1月1日以降に受け取る退職所得が対象(経過措置なし)
改正前(5年ルール)と改正後(10年ルール)の違い
| 項目 | 改正前(〜2025年) | 改正後(2026年〜) |
|---|---|---|
| 重複回避期間 | 5年 | 10年 |
| 典型的な戦略 | 60歳でiDeCo → 65歳で退職金 | 同一年受取 or 10年以上間隔 |
| 控除の取り扱い | 5年空ければそれぞれ満額控除 | 10年空けないと重複部分が差し引かれる |
| 影響を受ける人 | ほぼなし | iDeCo加入者350万人超+企業型DC加入者 |
この改正により、これまで広く推奨されてきた「60歳でiDeCoを一時金受取 → 65歳で退職金を受取」 という5年ずらし戦略が無効化されます。10年ルール下では、iDeCoと退職金の受取間隔が 10年未満の場合、後から受け取る方の退職所得控除から先に受け取った分の勤続年数(加入年数)が 差し引かれ、控除額が減少します。これにより課税対象額が増え、手取りが減少する仕組みです。
第4章: 受取最適化の基本戦略
改正後の制度下で有効な受取戦略は、個人の退職金額・iDeCo資産額・勤続年数・ 公的年金見込額によって大きく異なります。以下の基本方針を参考に、 シミュレーターで個別条件の最適解を確認してください。
戦略1: 同一年一括受取
退職金とiDeCoを同じ年に一時金で受け取る方法。 退職所得控除はそれぞれの勤続年数のうち長い方が適用されるため、 勤続年数が長い場合はこの方法が有利になることがあります。 特に退職金+iDeCo合計が控除額以内に収まるケースで有効です。
戦略2: iDeCo年金受取 + 退職金一時金
退職金は一時金で受け取り、iDeCoは年金形式で分割受取する方法。 退職所得控除と公的年金等控除の両方を活用できます。 65歳以降の公的年金等控除110万円枠に余裕がある場合に特に有効で、 iDeCo年金分の課税を最小化できます。
戦略3: 10年以上間隔を空けた受取
50歳前半でiDeCoを受取、60歳代後半で退職金を受取するなど、 10年以上の間隔を確保する方法。それぞれ独立して退職所得控除を フル適用できますが、50代でiDeCoを受け取れるケース(退職・転職時など)は限定的です。
戦略4: 社会保険料を含めた総合判断
一時金は分離課税で国民健康保険料に影響しませんが、 年金受取は雑所得として国保料の算定基礎に含まれます。 国保料の負担増を加味すると、税金だけでは有利に見える年金受取が トータルでは不利になるケースもあります。
最適化に必要な情報
ケーススタディ: 改正前後の手取り比較
具体的な金額を使って、10年ルール改正による税額の変化を計算します。
勤続30年・退職金2,000万円・iDeCo 500万円(加入20年)
前提条件
- - 勤続30年の退職所得控除: 800万円 + 70万円 x (30-20) = 1,500万円
- - iDeCo加入20年の退職所得控除: 800万円
- - 60歳でiDeCo一時金受取 → 65歳で退職金受取を想定
改正前(5年ルール)の計算
60歳: iDeCo 500万円を一時金受取
退職所得控除: 800万円 → 課税退職所得: 0円
税額: 0円
65歳: 退職金 2,000万円を受取(5年経過 → 控除リセット)
退職所得控除: 1,500万円 → 課税退職所得: (2,000万-1,500万) x 1/2 = 250万円
所得税+住民税: 約25.7万円
合計税額: 約25.7万円
改正後(10年ルール)の計算
60歳: iDeCo 500万円を一時金受取
退職所得控除: 800万円 → 課税退職所得: 0円
税額: 0円
65歳: 退職金 2,000万円を受取(5年経過 → 10年未経過で控除重複調整)
調整後控除: 1,500万 - 800万 = 700万円
課税退職所得: (2,000万 - 700万) x 1/2 = 650万円
所得税+住民税: 約112.6万円
合計税額: 約112.6万円
10年ルールによる税額増加
約86.9万円
同じ受取方法・タイミングでも、改正後は手取りが約87万円減少
勤続20年・退職金1,000万円・iDeCo 300万円(加入15年)
前提条件
- - 勤続20年の退職所得控除: 40万円 x 20 = 800万円
- - iDeCo加入15年の退職所得控除: 40万円 x 15 = 600万円
- - 60歳でiDeCo一時金受取 → 65歳で退職金受取を想定
改正前(5年ルール)の計算
60歳: iDeCo 300万円を一時金受取
退職所得控除: 600万円 → 課税退職所得: 0円
税額: 0円
65歳: 退職金 1,000万円を受取(5年経過 → 控除リセット)
退職所得控除: 800万円 → 課税退職所得: (1,000万-800万) x 1/2 = 100万円
所得税+住民税: 約7.7万円
合計税額: 約7.7万円
改正後(10年ルール)の計算
60歳: iDeCo 300万円を一時金受取
退職所得控除: 600万円 → 課税退職所得: 0円
税額: 0円
65歳: 退職金 1,000万円を受取(10年未経過で控除重複調整)
調整後控除: 800万 - 600万 = 200万円
課税退職所得: (1,000万 - 200万) x 1/2 = 400万円
所得税+住民税: 約55.2万円
合計税額: 約55.2万円
10年ルールによる税額増加
約47.5万円
退職金・iDeCoが比較的少額でも、改正の影響は約48万円に
ケースBの最適化案: 併用パターン
iDeCo 300万円のうち200万円を一時金、100万円を年金受取(5年分割)にすることで、 退職所得控除の重複調整を軽減しつつ、公的年金等控除枠も活用できます。 65歳以降の公的年金が年額180万円以下であれば、iDeCo年金分(年20万円)は 控除枠110万円の範囲内に収まり、実質非課税で受け取れる可能性があります。
この白書はこんな方におすすめ
50代〜60代の会社員
退職金の受取を控えており、iDeCoにも加入している方。 10年ルールの影響を最も受ける世代です。
iDeCo加入を検討中の30〜40代
加入前に出口戦略を理解しておくことで、 将来の受取方法まで見据えた資産設計が可能になります。
企業の人事・福利厚生担当者
従業員への退職金制度の説明や、企業型DCとiDeCoの 併用に関する問い合わせ対応に役立ちます。
FP・税理士などの専門家
クライアントへの説明資料として、 改正の影響と最適化戦略を体系的に把握できます。
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免責事項: 本資料は公的統計データおよび税制度の一般的な解説に基づくものであり、 税務相談や個別の税務アドバイスの代替ではありません。 ケーススタディの税額は概算であり、復興特別所得税等を含めた正確な税額は 個別の状況により異なります。 具体的な判断については税理士にご相談ください。 データの出典: 厚生労働省「就労条件総合調査」、国民年金基金連合会、国税庁統計。